仕事で収入を得ながら年金を受給している方、又はしようとしている方は必ず理解しておきたい『在職老齢年金』の制度。
仕事での収入と年金を足した額が支給停止調整額を超えると年金が減額されることもご存じでしょう。
では、仕事での収入は幾らまでなら減額されないのか。仕事での収入とは何を言うのか。支給停止調整額とは幾らなのか。幾ら超えたら幾ら減額になるのか。
そんな疑問を持っている方も多いのではないでしょうか。
実は私自身も「何となくは知っている」程度でした。実際、年金と収入を合算しても減額になる程の金額になら無いというのが現実だからなのですが。
しかし、今後どうなるかは分からないので詳しく知っておいて損は無いと思い調べてみました。
これから仕事をしながら年金を受給する方々の参考になればと思います。
年金が減額や支給停止となる境目を知る
支給停止調整額は幾ら
2022年4月に在職老齢年金制度が改定された段階では年金の基本月額と仕事で得る総標準報酬月額相当額の合計が支給停止調整額の47万円を超えると年金が減額となっていました。
この支給停止調整額は毎年見直しが入り、2023年1月~12月の消費者物価指数の上昇を受けて2024年4月からは50万円となっています。余りPRされないので、殆どの方が今でも47万円と思っているのではないでしょうか。
最近の物価高騰を考えると2025年度も変動することが予想されます。4月に年金機構のサイトをご確認ください。
では、50万円を幾ら超えると幾ら減額になるのか?年金の基本月額とは?総標準報酬月額相当額とはどうやって算出するのか?知っておいて損は無いと思うので簡単に解説していきます。
年金の基本月額とは
在職老齢年金の制度で支給停止調整額を超えた場合の減額対象は老齢厚生年金のみからです。
この在職老齢年金の制度でいう基本月額とは加給年金を除く老齢厚生年金の月額のことで、年金の受給開始時に発行されている『年金決定通知書』にある老齢厚生年金年金額の1/12です。
総標準報酬月額相当額とは
では、在職老齢年金制度で言う総標準報酬月額相当額とは何なのか、内訳はどうなっているのか。
実はこれがくせもので、殆どの方は聞いたことも無いのではないでしょうか。
総標準報酬月額相当額?そんなの聞いたことも無いし、毎月の給料明細を見てもそんなの載っていないよ。
当然この総標準報酬月額相当額が分からなければ、ご自身の年金が減額されるかどうか判断できませんので、詳しく解説していきます。
まずは、毎年の健康保険料と厚生年金保険料を決める標準報酬月額というものを知る必要があります。
これはどなたでも社会保険適用法人に勤めていて社会保険に加入している場合には対象となります。
よく「4月、5月、6月に給料が多いと社会保険料が高くなる」というのを耳にしますが、これはある意味事実です。毎年4月、5月、6月の給料から報酬月額(平均額)が決まり、更にこの報酬月額から標準報酬月額が決まり一年間の社会保険料が決まります。
この標準報酬月額を決定する基となる報酬月額には基本給、各種手当、残業代、通勤交通費が主に含まれます。
上の表は令和5年度(2023年度)の厚生年金保険料一覧で、青枠□欄が報酬月額、赤矢印↓欄が保険料の月額です。そして赤枠□欄が標準報酬月額です。
ご自身の給与明細の厚生年金保険料を表の赤↓保険料欄で確認し、その同じ行にある標準報酬月額が現在のご自身の標準報酬月額です。
この標準報酬月額と当月以前の1年間に支給された賞与額合計(標準賞与額)を12で割った額を足したものを総標準報酬月額相当額としています。
幾ら減額になるのか計算してみましょう
当月の標準報酬月額が27万円、当月以前の一年間の賞与合計が100万円の場合
標準賞与額1,000,000円 ÷ 12 ≒ 83,333円 → 千円未満を切捨て = 83,000円
総標準報酬月額相当額は 270,000円 + 83,000円 = 353,000円
年金の基本月額が 16万円だとすると 333,000円 + 160,000円 = 513,000円となり調整額の48万円を13,000円超えるため年金減額の対象となります。
但し、減額されるのは超えた額の1/2ですので 13,000円 ÷ 2 = 6,500円の減額になります。
上記の様に計算した減額分が年金の基本月額を超えると老齢厚生年金が全額支給停止となります。
前述したように年金の基本月額は受給開始時に送られてきた『年金決定通知書』を見て算出して下さい。また、その時点の標準報酬月額と賞与の明細から総標準報酬月額相当額を算出し年金が減額されるかどうかを確認してみて下さい。
再確認
①年金の基本月額は加給年金を除いた老齢厚生年金の月額
②標準賞与額は過去1年間の賞与額の1/12の千円未満を切捨てた額を月額
③標準報酬月額は月の厚生年金保険料から表を見て確認
④減額は(①+②+③−48万円)÷2 ※括弧内がマイナスの場合は減額無し
年金が減額になるのは損だからと言って仕事を押さえている方も、もう一度見直してみてはいかがでしょう。
知っておきたい標準報酬月額の決め方
ここで知っていて損はないと思うので、社会保険料を決定する元となる標準報酬月額について解説しておきたいと思います。
前出の厚生年金保険料額の一覧を見直して頂くと青枠□の報酬月額には幅があるのが分かります。これは、多少収入が上下したとしても保険料は変わらないということです。
算定基礎届と月額変更届で保険料が変わる
標準報酬月額は前述した様に4月、5月、6月に支給の報酬の平均額を報酬月額として年一回の算定基礎届で届出ています。実際に保険料が変わるのは9月の給与控除からです。
では、一度決まった保険料は一年間変わらないのかというと、例外があり途中で基本給が大きく変動し3ヶ月平均の報酬月額に対応する標準報酬月額の等級が、今までの等級と二等級違った場合に月額変更届という届出を行う事で変更となります。
社会保険料の定時改定である算定基礎届で届出る報酬月額には残業が含まれますが、随時改定である月額変更届は基本給が変動しなければ、残業が幾ら多くても届出することはありません。
ちなみに、月額変更届によって社会保険料が変更となるのは、届出の翌月からとなります。また、前の等級と二等級の変動がなければ変更となりません。
年金の受給額は変動する
物価による変動
年金の受給額は一度決まったら変わらないと思っていませんか? 年金の受給停止調整額と同様に、法律の規定で物価の変動にスライドして年金の基本月額が改定されます。2024年4月には前年比で昭和31年(1956年)4月2日以降に生まれた方は2.7%増額されます。
在職老齢厚生年金の受給額変動
老齢厚生年金の受給額は受給開始時点で決まります。しかし、仕事をしながら年金を受給しているという事は厚生年金に加入し続けている場合がほとんどです。
「もう年金受給額も決まっているし、保険料を払い続けるのは無駄な気がする」漠然と思ってしまう方もいらっしゃるでしょう。
ところが、年金を受給しながら厚生年金に加入し続けている場合65才時点で、年金の納付額を元に受給額の見直し(在職定時改定)があります。
更に、以降は厚生年金に加入出来る上限である70才までの毎年9月1日時点で厚生年金に加入している場合定時改定が入ります。また、70才時点もしくは退職時(厚生年金加入資格喪失時)にも改定されます。
月20万円程の給与だと、改定時に年額約13,000円の増額となります。大きな金額ではありませんが、毎年受給額が増えるというのは悪い気はしません。
もう一つ、加入し続けるメリットとして厚生年金保険の加入期間が20年に達していない方で、年下の配偶者がいる場合は特に20年になるまで加入し続けると、65才時点で加給年金が受給できる可能性があります。
加給年金は配偶者だけの場合、最大で年間40万円弱が受給できる可能性がありますので、確認しておく価値が十分あるのではないでしょうか。
加給年金については私自身も年金の繰上げ請求をするまでは詳しく知らず、逆に「どうせ出ないだろう」と思っていました。
いずれにしても、長年(これからも)おさめ続けた年金保険料です。適切に受給できるものは受給して行きたいと思います。